201503月18日

【311の記憶:5:統合本部設置へ:加筆修正し再掲】

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14日夜。
爆発寸前だった二号機の圧力低下、注水再開で一時の安堵。
しかし、根本的に解決には向かっていない。
総理応接室に原子力安全委員会や保安院、東電の関係者を集め、
今後の推移を予測、議論。
保安院の安井氏から、
「今回は何とかピンチを切り抜けたが、これから同じような事が起き続ける。そして、いずれ、ベント弁が今度こそ開かなくなる時が来るだろう」。
「どれぐらい持つのか?」
「一、二ヶ月の間に、そんな時が来るかもしれない」。
同席した原子力安全委員会の班目委員長ら数人も同意見。
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原子炉への対応サイクルは以下の通り。
核燃料の温度を下げるべく、冷却水を注ぐ

冷却水を浴びた核燃料から大量の水蒸気が発生する

その水蒸気が圧力容器内を満たし、圧力容器内の圧力が上昇

圧力容器内部の圧力が高いため、外部から冷却水が入らない。

圧力が下げる為にベントを行う。

圧力が下がって、再び冷却水を入れる。
以上の繰り返し。
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「これの循環が続くなか、ある時、本当にベント弁が開かなくなったらどうするか」。
「殺人的な線量となった場合、または爆発した場合、以後の対応は」等々。
一同、重い重い将来の現実を目の当たりにする。
そして、その瞬間は、遅かれ早かれいずれ訪れるとの予測。
「それと」と、保安院の安井氏が話す。
「東電が現場から撤退するとかしないとか話がありましたが、
私たち(技術者・役人)が判断するのは、あくまでも原発の構造と今後の推移です。
東電が撤退するしないは、政治側で決めて下さい」。
「わかってます」政務の誰かが答えた。
さきほど東電からあった撤退の申し出を断る事は当然として、
それでも今後起こりうる深刻な事態に対して、政治的にどう判断するか、それが迫られていた。
判断というよりも、決断。
いわば「現場で働いている方の命が極めて危険な状態になることを承知の上で、原発事故を収束させる為に働いてもらうこと」が迫られる。
大勢の国民生活を守る為に、少数の国民に犠牲を強いることに他ならない。
「現在の状況を踏まえ、総理にご判断頂くべきだ」と福山副長官。
「ならば」と、全関係者を招いて会議を開く事とした。
判断は一つしか無い。が、それが余りにも重い。
総理にその最後の決断をしてもらわねばならない。
日々徹夜で対応に追われている私たちは、
心のどこかで「いつかは爆発してダメになるのか。。。」
そんな不安を抱えていた。
それほど、疲労が心を弱めていた。
その後、この会議は「御前会議」と呼ばれるようになった。

臨時の原発対応室となっていた総理応接室を片付ける。
テーブルの上は原子炉の状態を示すデータ書類が山積み、
タバコの吸い殻、ウーロン茶の缶、食べ物で散乱していた。
すべて綺麗にした。
綺麗になった机の上に、緩い缶コーヒーとウーロン茶を並べた。
臨時の椅子を増やす。
海江田大臣が突如「みんなと写真とってなかったな、撮ろうか」と提案。
一同戸惑う。
綺麗になった総理応接室で、その場にいた班目委員長らと並んで写真を撮る。
「なんでこんな時に。。。。気でも触れたのかな」と不安になった。
関係する大臣らに招集をかける。
御前会議が開かれるまでの間、数人で総理執務室で総理を囲む。
総理、長官、福山副長官、細野補佐官、伊藤内閣危機管理監、そして私。
東電から撤退の申し出があったことを総理に報告。
総理から「撤退するって、それじゃあ原発はどうするんだ」と一喝。
「自分たちでコントロール出来ないから、他国に処理をお願いするなんてことになったら、日本はもう国としての体をなしてない」。
現場の吉田所長に電話する。
総理から「撤退との話があるが、まだ出来るか?」
吉田所長「まだ出来ます」。
続々と御前会議招集メンバーが総理応接室に集まってきた。

会議定刻。
総理、正副官房長官、総理補佐官、経産大臣、防災担当大臣、危機管理監、原子力安全委員長、保安院幹部ら十数人。
官房長官から説明「現状、原発の状況が相当深刻な状態にある。それに加え、東電から現場を撤退したいとの申し出もあった。官邸側として撤退は認めていないものの、これから一層事態が深刻化した場合、どのような判断をとるか決めていきたい」。
普段饒舌な長官だが、珍しく導入が下手な気がした。
なかば撤退を将来的に認めるかのような導入だった。
一瞬の沈黙の後、総理が強い口調で発言。
「撤退なんてあり得ないんだ!撤退を認めたらこの国はどうなるんだ!」
「そうだろう!」と原子力安全委員長を指差した。
「どうなんだ!」
明らかに威圧的な聞き方だった。
委員長「撤退はありません」。
総理「お前はどうなんだ!」と今度は委員長代理に。
代理「ありません」。
総理「お前は!」と保安院安井氏に指は移った。
安井氏「ありません」
先刻、安井氏から言われた言葉を思い出した。
「東電が現場から撤退するとかしないとか話がありましたが、
私たち(技術者・役人)が判断するのは、あくまでも原発の構造と今後の推移であって、
東電が撤退するしないは、政治側で決めて下さい」。
まさしく、それを強要している場面だった。
隣の細野補佐官に小声で話す。
「これはまずいんじゃないですか。政治で決める事でしょう」。
細野「この雰囲気じゃ、、、、何も言えない。。。」。
総理の意見に反対ではなかったが、
先刻の安井氏からの真っ当な意見に基づいて口を挟んだ。
「総理の勢いに構わず、技術的なご意見で結構です」。
一瞬、戸惑いが見られたが、総理の勢い変わらず。
結局、聞かれた全員が「撤退はありえない」との答え。
総理から
「そうだろう」と満足した様子。
続けて「今から東電に行って、政府と東電の統合対策本部を作る」。
一つの方向性が決められた。
撤退の意思を持つ東電に直接に乗り込んで抑え、
統合本部結成により滞っている情報共有含め諸問題を改善したいとの意図。
それに際して、一点疑問が浮かんだ。
(例え撤退が阻止されたとしても、今後、原発の線量が一層高くなり、作業員が自発的に逃避する事態になったら、どのような権限で、それを食い止めるのか。
そもそも、総理が民間企業に深刻な命令を下すことは出来るのか)。
そこで、
「統合本部を作って撤退を食い止めるとして、その権限の法的根拠はどこにあるのでしょうか」と発言した。
すると、長官から
「そんな法律云々は、いま関係ないんだよ!!」と怒鳴られる。
(むしろあなたが考える立場だろう。。)と悔しくなる。

「東電の清水社長を官邸に呼べ」。
その指示をもって、いわゆる御前会議は終了。
長官ら一部が、総理執務室に移動。
その場で改めて総理から
「これで東電が投げ出したら、全ての原発がダメになる。福島第一だけじゃなく、第二も、それ以外の原発も。それは東日本全部がダメになるってことだ。」
「そうなったら国の体をなしてない。そんな日本だったら、他国から管理される結末になる」
「東電に統合本部を作る、統合本部の本部長は私、事務局長は細野君」。
一通り、総理の想いと指示を受け止める。
再び、私から
「統合本部の法的根拠と指示権限をはっきりさせたほうがいいのではないでしょうか」と問いかける。
再度、官房長官から「だから、いまそんなことをはいいんだよ!!」と怒鳴られる。
よく怒鳴られる日。
それでも、社長でもない総理が、東電社員に指示を下すことができるのか、法的に整理はしとくのは当然と思った。
向かいに座る滝野官房副長官の後ろにまわり、
耳元で「長官はあぁ言われましたが、副長官のところで早急に検討しておいて下さい」とお願いした。

東電の撤退要請を受け、
政府と東電の統合本部を作る事を決定。
清水東電社長を官邸に呼ぶ。
東電の清水社長が到着したとの一報。
「私が迎えに行ってきます」と立ち上がった。
総理執務室を出ると、扉の前には既に清水社長と従者2人。
「社長お一人で入られますか?それとも全員で入られますか?」
清水社長「私一人で参ります」。
清水社長と共に総理執務室に入室。
総理の斜め前に座ってもらう。
総理から「まず、撤退はありえない」。
すると、意外なほどあっさりと
「はい。。。」と清水社長が答えた。
撤退要請の電話を受けていた長官や経産大臣は意外な表情。
関係者一同も首をかしげた。
総理から「これから政府と東電の統合対策本部を作る。本部長は私。事務局長に細野君。直ちに東電に行くから、準備するように。どれぐらい準備に必要か?」
これには清水社長も驚いた様子だった。
清水社長「二時間ぐらいあれば。。。。」
総理「そんな悠長な時間はない!!」
清水社長「・・・・・・・」
総理「一時間で用意して下さい。細野君を同行させます」
清水社長「はい。。。」
短い会議が終了。
席を立ちかけた清水社長に私から一問。
「統合本部設置に東電は同意したという事でいいですね?」
清水社長「はい。結構です。」
今後の為に、双方の同意である事を確認しておきたかった。
総理が命令を直接下す立場になる以上、
しっかり同意してもらいたいと。
清水社長が帰った後、急いで準備に取りかかる。

秘書官室に戻り「集合して下さい」と秘書官達に声を張り上げた。
「これから政府と東電の統合本部が設置されます。
それに伴い、まもなく総理が東電へ向かいます。
如何二点、作業お願いします。
一点目、統合本部の法的位置づけを詰めてください。
二点目、総理出発時に玄関でぶら下がり取材を行います。その段取りと、その際の発言案を用意してください。 以上」
直ちに各秘書官が作業に取りかかる。
本当に優秀なスタッフ。
岡本政務秘書官から呼び止められる。
「総理からいま呼ばれまして『東電の職員が逃げ出し始め、原子炉が最悪の事態になったら、もう一度私が現地に再度行く可能性がある、準備せよ』と。どうしましょう?」
重い相談を持ちかけられる。
聞いた私も、問いかけた岡本秘書官も、現実化したときのことを想像してゾッとした。
作業員が逃げ出すような現場に行くってことは、間違いなく死ぬじゃないか。
メルトダウンだらけの原発事故現場に行くのか。。。。。しかも決死隊の一人として。
「とりあえず、輸送ヘリのスーパービューマの状況確認だけしておきましょう」と返答。
防衛省出身の秘書官にヘリの運航状況のチェックを命じる。
それと共に岡本秘書官に「東電までの道中、総理と同乗させてくれ」と頼む。
東電に着く前に、熱くなっている総理にクールダウンしてもらおうと思った。
東電行きの準備は進められているが、
突然の訪問ゆえ、官邸側の準備も大わらわだった。
通常の総理専用車が点検にまわっていて使えない。
急遽予備の専用車を用意。
運転手も深夜だったので就寝中。急いで起きて準備してもらう。
警察も東電までのルート確認、警備、事前チェックにてんてこ舞い。
連日の徹夜でシャツにサンダルというスタイルだった私も、
久しぶりにジャケットとネクタイをしめ、革靴を履く。

準備が整い、総理執務室を出る。
階下のエントランスホールで記者たちへの取材。
簡単に済ませて車に乗り込む。
久しぶりに私も総理車に同乗。
車中、総理は意外なほど落ち着いていた。
官邸から東電は驚く程近い。
信号が青なら5分程度。
急いで総理にご進言。
「先刻、岡本秘書官にご指示あった原発行きのヘリは現在手配確認中です」
総理「うん」
「一点、僭越ながらお話ししたいのですが」
総理「いいよ」
「ご指示の通り、事態が一層深刻化した場合に、総理が再度福島原発入りできるよう準備はしておきます。ただ、いざ決死の覚悟で超高線量の現地に行く事は、同行する私も含め、多くの秘書官、警備の警護官には相当の心の準備が必要になると思います。12日の現地入りでさえ、表には出しませんが多くの同行者は心の底で恐怖感を持っておりました。今後、総理ご自身が再度現地入りを決行される場合は、そのような想いの多くの若手が含まれる事をご留意ください。高線量被爆で死ぬ可能性が必至の場合は、総理お一人で向かって頂くことになりかねません」。
決断に従う立場の私が、このような進言をすることに躊躇はあったが、
私以外に総理に伝えられるものはいなかったから、
全く余計なことではあったが、総理にお伝えした。
自分の弱さが如実にでた瞬間だった。
やはり、まだ死にたくない、将来子供を授かりたいとの想いが、いざ死の覚悟を迫られた時に出てきたのだと思う。
それと、進言出来ない秘書官や若い警護官の気持ちを代弁したいとの想いもあった。
総理は「そうか〜、 やっぱり怖いかな〜」と意外とケロっとしていた。
そして「俺はもう歳だからな。余り怖くないんだよ。若い人にはやっぱり恐怖感あるかもな」と、
少し微笑みながら話していた。

官邸に清水東電社長を呼び、
政府と東電の統合本部を設置する事が決まる。
官邸から五分の東電本店へ急行。
急遽決まった総理東電行きにもかかわらず、
東電本店玄関口には多くのマスコミが。
ライトとフラッシュの中、車は地下駐車場へ。
そこから本店内の対策本部へ早足で進む。
対策本部に到着。
馬蹄形のテーブルに社長をはじめ東電幹部。
その向かいの長テーブルに総理らが座る。
私は総理の斜め後ろ、福山副長官の後ろに座る。
東電の職員が「広報班」等書かれたビブス
(メッシュのランニング)を着て走り回っている。
廊下では談笑している人もいた。
細野補佐官から「総理からお話があります」と仕切り。
ここで総理が話した内容に関しては、既報の通り。
私の記憶の断片は以下。
「撤退は許されない」
「撤退したら、日本はどうなるのか。東日本は終わりだ」
「自国の原発事故を、自ら放棄する事は、国として成り立たない。そんな国は他国に侵略される。」
「撤退しても、東電は潰れる。だからやるしかないんだ」。
「60歳以上の職員は全員現地に行く覚悟でやれ。俺も行く」。
このような内容を怒鳴るように話していた。
車では落ち着いていたのに、
結局、幹部を前に激高してしまったようだった。
話も繰り返されるようになり、長めに。後ろを振り向くと、
各現場とオンラインで繋がっているテレビシステムがあり、
その画面の中で各現場は作業を停めて総理の話を聞いていた。
(これじゃ作業の妨げになる)
そう思って前に座っている福山副長官にメモを渡す。
「長過ぎます。話を止めることは出来ませんか」。
副長官の表情は困難を示していた。
総理と、怒鳴り演説を聞く幹部、職員、作業員との温度差は深刻だった。

総理の話が終わり、総理が振り返る。
「俺に誰が説明するんだ!!??」と叫ぶ。
「こんなデカい部屋じゃ何も決められない!!」。
異様な雰囲気。東電幹部、職員が唖然とする。
対策本部の大部屋の廊下向かいの小部屋に移る。
ここの壁にも現場とオンラインで繋がったテレビ会議システム。
福島第一原発の内部が手に取るようにわかる。
ボタン一つで、吉田所長と話が出来る。
(官邸にいた今まではなんだったんだ。。。。
こんなシステムがあるのなら、
さっきの注水開始だって本店が知らないわけないじゃないか)
小部屋には、政府側は総理、経産大臣、福山副長官、細野補佐官、班目委員長、保安院安井氏、そして、総理秘書官ら数名。
東電側は勝俣会長、武藤副社長、後ほど東芝らメーカーの人も加わっていた。
清水社長はウロウロ。
勝俣会長に、初めて会う。
非常に小柄だが、清水社長とは比べ物にならない存在感。
周りの対応も清水社長とは違うようだった。
政府用に小部屋をもう一つ用意してもらった。
そこは電波の通りが悪く、官邸残留組との連絡が滞る。
政府首脳が乗り込んだこともあって、至極居心地が悪い。
総理のいる小部屋では勝俣会長と武藤副社長による現状説明と、今後の予測が話されていた。
しばらくすると段々人が減っていく。

総理がうたた寝をし始めた。
さすがにみっともないので突いて起きてもらう。
(もう体力的にも限界か。大きな判断が続き疲れているのだろう)。
怒り気味の人が話しかけてきた。
「寺田さん、酷いじゃないですか。官邸に置いてくのは!!」
突然怒られる。
誰だろ?と戸惑ったが、官邸に清水社長と一緒に来た従者の方。
清水社長が一人で総理執務室に入室したもんで、
小部屋で待機してもらっていたのだ。
清水社長は、その従者を小部屋に迎えに行く事無く、
細野補佐官と東電本店に戻ってしまっていたようだ。
(置いてったのは清水社長だろ)

続く

 

写真は清水社長(当時)

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