202309月01日

【隣人とするなら誰が】


法務委員会の海外派遣調査団に野党筆頭理事として参加しています。
羽田空港を出発して約20時間、ノルウェーの首都オスロに着きました。

今回のオスロ訪問の目的は「ノルウェーの矯正政策(刑罰、刑務所の在り方)」について議論を深め、日本の政策に活かすこと。
早速、所管省庁である法務公安省を訪ね、担当副大臣、サポートする専門官らと2時間を超える議論を開始。

ノルウェーの刑罰は日本と大きく違い、刑務所に収容するだけはなく、収容外の刑罰も相当な部分を占めます。
それは、日常的な生活を送りながら(働きながら)、報告義務や一部電子デバイスをつけて位置を確認されるなど、自由を制限される刑罰です。仕事を失わずに刑罰を受けるため、社会復帰が容易になります。
刑務所に入所する場合にも、日本と同じく受刑者を厳重管理するケースもありますが、(我々の常識を超えた)相当緩められた管理で収容する刑務所も存在します(翌日、実際に訪問しました)。

これらのノルウェーの刑罰手法に一貫して流れる考え方は、「犯罪を犯した人を社会から遮断せず(孤立させず)、人間らしい生活を送れるようになることで再犯を抑止する」というものです。
つまり、徹底した「社会復帰、再犯防止」を目的としたあり方です。

担当官が言った言葉が印象に残ります。
「受刑者の自由を奪うこと以外の全ての権利は認める」。
「刑務所は、罪を犯した人間を良い人間に生まれ変わらせる場所」。
個々人の自由を最大限尊重するノルウェーにとって、自由を制限することは罪を犯した人への罰となってはいますが、刑務所の主たる役割は矯正にある、ということでした。

例え刑務所の中においても、順を追いながら一般生活となんら変わらない暮らしに変化していきます。
私たちが後日訪問したハルデン刑務所には、部屋にはテレビがあり、シャワーがあり、共同のキッチンがあり、日本のコンビニと変わらぬ商店があり(労働して得た賃金で購入できます)、家族との面会も週に一度は認められ(子供がいる場合には週に二度)、模範的な生活をすれば、家族と最大48時間、別棟で生活をすることができます。そこには子供への配慮もあって、一般の入場口とは違う子供専用の小道があり、父親の置かれた環境を必要以上に意識しないで済むようになっていました。
日本の刑務所も複数訪問したことがありましたが、建物の雰囲気、看守の態度、受刑者の表情、ありとあらゆるものが日本と違いました(これは実際に訪れないとわからない違いでした)。
人間らしく、普通の人と変わらぬ一般的な生活を送ることができるように、刑務所の中で体験させ、サポートすることが、二度と過ちを犯さない大きな礎となる、そのような強い意思が感じられる刑務所となっています。

犯罪を犯した人が出所後に孤立することは最も望ましくなく、犯罪を誘発しかねない為、社会復帰、地域やコミュニティへの復帰を最優先課題としています。
それは、人間が犯罪を犯すのは、その人が暮らす環境が大きな要因であって、それを改善していくことが罪を犯した人にとっても、そして全てを包摂する社会にとっても有益なのだ、という考え方です。

実際、このような政策が取られるようになってからノルウェーの再犯率は大きく下がっています。
再犯率が下がれば、その分、当然犯罪被害者も減るわけで社会にとっては大きなプラスになります。
犯罪者も、犯罪被害者も少ないことは社会にとって望ましいものと私も思います。

ただ、日本では受け入れ難い考え方なのかもしれません。
日本では「犯罪を犯した人は、苦しい環境に置かれ罪を償うべきだ」との発想が先行します。
矯正、再犯防止という視点よりも、罪の償いが優位に立っていると言えるかもしれません。

日本側からの「そのような矯正政策で、犯罪被害を受けた方やその家族の心情をどう捉えているのか」との問いに、ノルウェー側は「被害者ケアは十分なものを保健省を中心に行なっている」との答えでした。(実際日本とは補償額一つとっても相当違いました)。

私からは「日本は『社会復帰・再犯防止』よりも、『被害者の気持ち・処罰感情』が優位になることが多く、方向性としては厳罰化の流れになっている。これを転換するにはどうしたらいいのか」と問うたところ、以下のような回答が返ってきました。

「決定的な処方箋はないと思うが、いずれ犯罪を犯した人が帰ってきて隣人となる時に、長い時間刑務所の中で社会から途絶された受刑者がいいのか、それとも社会性をしっかり整えた受刑者がいいのか、ぜひ国民で考えてほしい」。

考えさせられる答えでした。
もし将来隣人となるのなら、受刑者にはどのように刑期を過ごしていてほしいのか。

限られた予算や人員、そして国民感情等、多角的に検討しなければならない難しい課題ですが、多くの皆さんと共に、このことを考え、社会にとって最も望ましいものに導いていく必要性を強く感じた訪問となりました。

(最もご紹介したいハルデン刑務所は撮影禁止のため、写真がありません。記事が参考となるリンクを下記に貼っておきます)。

https://globe.asahi.com/article/14707763?fbclid=IwAR1Wo2x5HOxm2uukJMHS0GgG7IGV4-OPfoAjD5VZZDJJqa1GVxXN4p_1M3Y

月別アーカイブ