202308月05日

【政治判断】


批判のない政治判断は実質的に判断ではなく、それは判断を待たずして自然と導かれる解であって、本当の意味での政治判断とは、賛否両方から(あるいは右派左派両方から)寄せられる意見を踏まえ、自らの信念に照らして一つの答えを出すことだと思っています。
その意味で、今回の齋藤法務大臣が下した判断は、まさしく政治判断そのものであり、その判断に心からの敬意を示したいと思います。

先の国会で議論された入管法につき、私自身が問題提起した課題の一つが、この「在留資格のない子どもたち」についてでした。
親が送還を拒否したことによって、日本に生まれながらも健康保険証も貰えず、移動にも制限がかかり、普通に暮らすことができない子どもが現在201名おります。その子らは生まれながらにして与えられた運命の中で、希望も抱けずただただ苦しくもがいています。日本以外に知る国もなく、帰る国もありません。せめてその子らを救うことはできないか、在留資格を与えることはできないか、そのような問題意識を私は持っていました。

4月21日、質疑の中で大臣にお願いした際、大臣からは、法務省が用意していた答弁書にない「真剣に検討したい」との答弁がありました。その後、与野党の修正協議の中で一度はこの子どもたちの救済の道が見えながらも、修正合意に至らず水泡に帰し、悔しい思いだけが残ったままでした。

それから4ヶ月。
大臣自身が常々「真剣に検討したい」と答えていた判断がなされ、日本で生まれ教育を受けたの子どもと、その親(重大な犯罪歴がある親は除く)へ在留特別許可を与え、正規に日本に滞在することを認めました。
在留特別許可は、ガイドラインはありながら原則的に個別に都度判断がなされてきました。従って、このように一律に判断することは異例で、本当に大きな政治判断です。
(もちろん、この判断は今回限りであって、今後同様のケースを認めることを意味していません)。

反対は多いでしょう。
「なぜ、日本に生まれた子供に限るのだ」
「もっともっと認めるべきだろう」
一方で、
「在留資格のない人に認めるべきではない」
「これでは日本で子どもを産めば在留が認められることになる(これは誤解です)」等、両方向からの批判が多く寄せられています。

それらの批判には、大臣自身が記者会見で述べたことを転載することで説明としたいと思います。

齋藤法務大臣:
わが国で生まれ、親が送還を拒否したことによりまして、我が国での在留が長期化してしまった子供については、その子供自身に責任はないにも関わらず、将来に不安を抱き、健康保険に加入できないなど、生活に不便がある状況に置かれているわけであります。私自身、子供の問題についてはこれまでも真剣に考えてきたことから、その外国人のことに限らずですね、そのような子供たちを何とか救えないかという思いで、対応策を真剣に検討してまいりました。しかし、この問題は、子供のみに在留特別許可を与えるものとすれば、子供の生活が立ち行かなくなってしまいかねず、一方で帰責性のある親を含めて無条件に在留特別許可を与えた場合には、適正な出入国在留管理行政に支障が生じかねないために一刀両断でこうすべきだという結論が出せない難しい問題であったことから、慎重に検討を重ねてまいりました。今回の方針はこのような慎重な検討を重ね、私自身悩み抜いて導き出した結論でありまして、適正な出入国在留管理行政を維持しつつ、できる限り子供の保護を図るというバランスを実現したものであるというふうに考えています。


この説明に尽きると思います。
それでも批判はあるでしょう。
是非そこは、これからも皆さんと議論していきたいと思います。
外国人との共生の問題に関して国際的な答えはありません。
どの国も思い悩み、揺れ、国民的議論を続けています。
我が国も、本腰を入れて議論すべき時はとっくに訪れています。
日本として、どのように向き合っていくのか絶えず答えを探っていく必要があると思います。

最後に、この判断によって在留資格を得る子どもたちに向けた大臣の言葉を紹介します。
齋藤法務大臣:
「今回、在留資格を付与することができた子供たちに対しましては、まず日本で安心して生活し、勉学に励み、健やかに成長してもらい、いずれはそれぞれの夢を実現し、日本社会で活躍していただきたいと考えております。私自身の夢でもあります」。

私自身も、この課題を取り上げ、諦めずに何度も働きかけてきて本当に良かった、議員となって20年、真剣に向き合って問い続ければ事は動いていく、そう今しみじみと噛み締めています。
そして、本件に関し、一端の責任を背負い絶えず質問にお答えし、説明を尽くしたいと思います。

 

参考として、この件のきっかけとなった4月21日の質疑をこちらに載せておきます。
大臣の答弁は、本当に真剣なものでした。


令和5年4月21日 衆議院法務委員会議事

○伊藤委員長 次に、寺田学君。
○寺田(学)委員 寺田です。午前に引き続きよろしくお願いします。二十分切っていますので、早速入りますが、お手元の方に、今日資料を、昨日と同じですが、できませんでしたので、配っています。在留特別許可について質問したいです。その中でも、仮放免中の子供についてです。新聞の資料をやっているので、与党の皆さんも是非御関心を持ってほしいと思うんです。私自身も知らなかった制度だったんですが、不法移民を生きるというドキュメンタリーを見る中でこのことを知りました。
DACA、ダカと呼ぶ方もいるそうですけれども、アメリカの制度です。タイトルにあるとおり、不法移民の子の救済、当面継続。このタイトルが示していること自体は、この本文の中にありますが、子供のときから国内で育った若者、アメリカではドリーマーと呼んでいたらしいですけれども、ドリーマーに滞在資格を与えることは、米国内でも幅広い支持がある。しかし、移民問題は党派の対立が激しくて、法改正は頓挫してきて、そのために、オバマ政権として、大統領令でDACAを導入して、一定条件を満たした
若者を強制送還の対象から外した。ただ、トランプ政権になって、これは大統領令でやっているのはおかしいといって撤回したことを、米国の最高裁がトランプ大統領のやり方を棄却した。いずれ、まだ残っているということです。
各国ともに、在留資格のない子供に対してどのように向き合っていくのかということをとても真剣に悩んで、試行錯誤しているということだと思います。アメリカのような国であっても、まさしく今回、最高裁、保守系の方々、保守系の裁判官がいる中においてもこの制度を維持するやり方を選んだということでした。やはりこのDACAは、強制送還の期限を延ばすみたいな話ですので、ちょっと違いますけれども、私たちのこの日本も、何かしらの仕組みや制度を検討するということは、どういう考え方、どういう党派であろうとも、私は必要なことだと思っています。
いろいろ入管庁の方々の御苦労もいただいて、調べていただきましたが、今、この日本には、日本で生まれて、日本に連れてこられて、日本しか知らない仮放免中の子供が、統計上、少なくとも二百名以上いると。その中には、小学校に通う子供が百二十三人、中学校に通う子供は六十四人。恐らく、高校に通う子供も、未成年もいると思います。その子供たちが、周りにいる同級生と同じ扱いもされず、そして、病気にかかれば保険がなくて満足がいく治療も受けられていない。本当に僕はふびんでならないと思います。何とかしてあげたいというのを強く考えているんです。
話はちょっと個人的なことに変わるんですけれども、私、今こうやって質疑に何回も立っていますけれども、一部廃案を求める方々から、内なる敵と今呼ばれて、批判をされておりました。その理由は、この法案の審議を進めることを認めたこともありますし、審議拒否もせずに審議を続けているからだというふうに言われました。そのような批判を私自身受けていますけれども、私は審議拒否は決してするべきではないというふうに思っています。なぜなら、このように大臣と向き合って議論ができるというのは誰しもができることではありませんし、お願いするという機会を得ることも誰しもできることではないと思っています。ですので、今、私に課せられたことというのは、こういう本当に与えられた貴重な機会を決して無駄遣いすることなく、この二百人余りの子供たちの最善の利益のために立場を利用すべきだと思っています。
そういう意味で、この立場をかりて大臣にお願いがあります。このふびんな、二百名を超える、苦しい立場にある仮放免中の子供を何とか救ってほしいと思います。彼らには帰る国もふるさとももないです。自分も9歳の子供がいるんですけれど、生まれた場所が違っただけでこんなに苦しい思いをしているんだなと思うと、何ともできません。
いろいろ調べる中で、確かに大人には在留特別許可を与えるにはちょっと戸惑うような、ためらう人がいることも事実ですし、自己責任で苦しい環境を招いた人もいるなと思いますけれども、ただ、この二百名を超える子供たちについては何ら一切責任がないと思います。ただ突如として与えられた運命の中で苦しくもがいているんだなと思います。
朝日新聞でありまして、記事の中で、日本で生まれた十五歳の子供が、普通の人生を送りたいというコメントを出していました。川口に住むクルド人の男性、高校生でしたけれども、仲間から上野の動物園に行こうぜと言われたら、許可がないと県外に出られないものですから、ごめん、俺は無理だと言って断ったと。
その人が言っているのは、普通の人生を送りたいと。多分、この子たちはそんなにぜいたくな望みをしているんじゃないなとは思うんです。単純に、普通の生活を送れるようにしてほしいということを願っていると思います。
大臣、本当に繰り返しになりますけれども、何とぞ、こういう子供たちに普通の生活が送れるようにお力をかしてほしいです。法律改正も要らないです。国会の承認も要らないです。大臣が持っている権限ですることはできると思います。判断一つでその子らを助けられるという貴重な権限を大臣はお持ちになっていると思います。どうか、いろいろ事情はあると思います、いろいろな新たに生まれる問題もあると思うんですけれども、子供たちが望むのであれば、在留特別許可をその子らに与えてほしい。このせっかくいただいた機会をもってお願いしたいと思います。本当にこのとおりです。何とか助けてやってください。
答弁を御用意されていると思いますけれども、恐らく望ましい答弁はないと思っていますので、この法案がいつか採決をされるときが来るのかもしれません。その最後の瞬間まで、大臣の良心を信じたいと私は思っています。

○齋藤(健)国務大臣
まず、この質問に入る前に寺田委員がるる述べられたことにつきまして、私から一つ申し上げたいと思いますけれども、私も子供を二人育てましたし、実は非常に厳しい状況で、物すごく悩みながら育てた経験があります。この私の悩みは、寺田さんが御指摘されたような方の苦しみに比べれば大したことではなかったと思いますが、子供の問題につきましては、私は人一倍真剣に考えているつもりであります。
さはさりながら、現行法上では様々な問題がある、御両親を簡単にこういう人だと言い切れない方もたくさんおられるのも現実としてあるわけでありますが、私は、今の寺田さんの思いは重く受け止めて、微力ではありますけれども、私が何ができるかということは真剣に検討していきたいというふうに思っています。

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